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2009年春号

編集長コーナー 1996(後編)

ユーラシア大陸の遥か上空で、途 切れ途切れの睡眠を繰り返している うちに辿りついたのは、シェイクス ピアと紅茶の国。10代の終わりを 過ごしたのは、この奇妙な、もうひ とつの島国。そこで何をしていたか と言われてもうまく説明できないが、 とにかくよく歩いた。街の端から端 まで、隈なく歩き回った。日が暮れ ると街は表情を変えた。闇は深く、 深く。それでもさらに足は奥へと。 路地裏、ビルの隙間。突然、暗闇で 誰かの目が光るとドキッとした。つ いには終電を逃してしまって、真冬 の身も凍るような空気の中、駅の外 で立ち尽くして始発を待った、あの 永遠のような時間が、なぜか忘れる ことができない。

あるときには見渡す限りの畑の真 ん中にポツンと取り残されてしまっ た。夕闇に包まれ、右も左も、時間 の感覚さえもなくなった。大きな鉄 塔に沿って歩いていると大雨になり、 雷が光った。下を向いて歩を進めて いたら、足元で蛙が跳ねた。いった いどれだけ歩いただろう。顔を上げ ると知っている町の景色が見えて、 安堵の気持ちで一杯になった。

その小さな町は、自分にとって、 世界でいちばんの場所。外国人がそ こを目がけて来ることなんて、絶対 にありえないようなところ。並木の ある通りがあって、最低限の物を揃 えるためのスーパーと商店がひとつ ずつ。小さな郵便局。通りの端には 映画館があったけれど、もう片方の 端には、あまり近寄らないようにと 言われていた。そして、酒場や町の 公民館で男女が出会い、そこで一生 を終える。わかってはいたけれど、 どこにも「世界」なんてものはない。 またそれは、どこにでもあるものだ。 忘れていた様々なことが蘇ってき そうで、溢れてきてしまいそうで、 今でもそこに戻るのを躊躇するほど。 でもいつか戻れることを願って、も うすこし旅を続けてみます。

1月下旬にタイに移住しました。こ のコラムもここで一旦おしまいです。 今までありがとうございました! またお会いしましょう。
(文/大山紘生)

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